装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、この女(永井キヌ子という)のように、こんなに見事に変身できる女も珍らしい。
「さては、相当ため込んだね。いやに、りゅうとしてるじゃないか。」
「あら、いやだ。」
どうも、声が悪い。高貴性も何も、一ぺんに吹き飛ぶ。
「君に、たのみたい事があるのだがね。」
「あなたは、ケチで値切ってばかりいるから、……」
「いや、商売の話じゃない。ぼくはもう、そろそろ足を洗うつもりでいるんだ。君は、まだ相変らず、かついでいるのか。」
「あたりまえよ。かつがなきゃおまんまが食べられませんからね。」
言うことが、いちいちゲスである。
「でも、そんな身なりでも無いじゃないか。」
「そりゃ、女性ですもの。たまには、着飾って映画も見たいわ。」
「きょうは、映画か?」
「そう。もう見て来たの。あれ、何ていったかしら、アシクリゲ、……」
「膝栗毛《ひざくりげ》だろう。ひとりでかい?」
「あら、いやだ。男なんて、おかしくって。」
「そこを見込んで、頼みがあるんだ。一時間、いや、三十分でいい、顔を貸してくれ。」
「いい話?」
「君に
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