の陰気くさい二階建のアパートである。キヌ子の部屋は、階段をのぼってすぐ突当りにあった。
ノックする。
「だれ?」
中から、れいの鴉声《からすごえ》。
ドアをあけて、田島はおどろき、立ちすくむ。
乱雑。悪臭。
ああ、荒涼《こうりょう》。四畳半。その畳の表は真黒く光り、波の如く高低があり、縁《へり》なんてその痕跡《こんせき》をさえとどめていない。部屋一ぱいに、れいのかつぎの商売道具らしい石油かんやら、りんご箱やら、一升ビンやら、何だか風呂敷に包んだものやら、鳥かごのようなものやら、紙くずやら、ほとんど足の踏み場も無いくらいに、ぬらついて散らばっている。
「なんだ、あなたか。なぜ、来たの?」
そのまた、キヌ子の服装たるや、数年前に見た時の、あの乞食姿、ドロドロによごれたモンペをはき、まったく、男か女か、わからないような感じ。
部屋の壁には、無尽会社の宣伝ポスター、たった一枚、他にはどこを見ても装飾らしいものがない。カーテンさえ無い。これが、二十五、六の娘の部屋か。小さい電球が一つ暗くともって、ただ荒涼。
怪 力 (二)
「あそびに来たのだけどね、」と田島は、む
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