。もうたくさん、なんて断っているお嬢さんや何か、あれは、ただ、色気があるから体裁をとりつくろっているだけなのよ。私なら、いくらでも、食べられるわよ。」
「いや、もういいだろう。ここの店は、あまり安くないんだよ。君は、いつも、こんなにたくさん食べるのかね。」
「じょうだんじゃない。ひとのごちそうになる時だけよ。」
「それじゃね、これから、いくらでも君に食べさせるから、ぼくの頼み事も聞いてくれ。」
「でも、私の仕事を休まなければならないんだから、損よ。」
「それは別に支払う。君のれいの商売で、儲《もう》けるぶんくらいは、その都度《つど》きちんと支払う。」
「ただ、あなたについて歩いていたら、いいの?」
「まあ、そうだ。ただし、条件が二つある。よその女のひとの前では一言も、ものを言ってくれるな。たのむぜ。笑ったり、うなずいたり、首を振ったり、まあ、せいぜいそれくらいのところにしていただく。もう一つは、ひとの前で、ものを食べない事。ぼくと二人きりになったら、そりゃ、いくら食べてもかまわないけど、ひとの前では、まずお茶一ぱいくらいのところにしてもらいたい。」
「その他、お金もくれるんでしょう?
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