言いました。
「ちきしょう! 警察だ。もう承知できねえ」
ぼんやり外の暗闇を見ながら、ひとりごとのようにそう呟《つぶや》き、けれども、その男のひとの総身の力は既に抜けてしまっていました。
「すみません。どうぞ、おあがりになって、お話を聞かして下さいまし」
と言って私は式台にあがってしゃがみ、
「私でも、あとの始末は出来るかも知れませんから。どうぞ、おあがりになって、どうぞ。きたないところですけど」
二人の客は顔を見あわせ、幽《かす》かに首肯き合って、それから男のひとは様子をあらため、
「何とおっしゃっても、私どもの気持は、もうきまっています。しかし、これまでの経緯《いきさつ》は一応、奥さんに申し上げて置きます」
「はあ、どうぞ。おあがりになって。そうして、ゆっくり」
「いや、そんな、ゆっくりもしておられませんが」
と言い、男のひとは外套を脱ぎかけました。
「そのままで、どうぞ。お寒いんですから、本当に、そのままで、お願いします。家の中には火の気が一つも無いのでございますから」
「では、このままで失礼します」
「どうぞ。そちらのお方も、どうぞ、そのままで」
男のひとがさきに、そ
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