が綺麗におかえし出来そうですの。今晩か、でなければ、あした、とにかく、はっきり見込みがついたのですから、もうご心配なさらないで」
「おや、まあ、それはどうも」
 と言って、おかみさんは、ちょっとうれしそうな顔をしましたが、それでも何か腑《ふ》に落ちないような不安な影がその顔のどこやらに残っていました。
「おばさん、本当よ。かくじつに、ここへ持って来てくれるひとがあるのよ。それまで私は、人質になって、ここにずっといる事になっていますの。それなら、安心でしょう? お金が来るまで、私はお店のお手伝いでもさせていただくわ」
 私は坊やを背中からおろし、奥の六畳間にひとりで遊ばせて置いて、くるくると立ち働いて見せました。坊やは、もともとひとり遊びには馴《な》れておりますので、少しも邪魔になりません。また頭が悪いせいか、人見知りをしないたちなので、おかみさんにも笑いかけたりして、私がおかみさんのかわりに、おかみさんの家の配給物をとりに行ってあげている留守にも、おかみさんからアメリカの罐詰《かんづめ》の殻を、おもちゃ代りにもらって、それを叩いたりころがしたりしておとなしく六畳間の隅で遊んでいたようで
前へ 次へ
全43ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング