、「トカナントカイッチャテネ、ソレデスカラネエ、ポオットシチャテネエ、リンゴ可愛イヤ、気持ガワカルトヤッチャテネエ、ワハハハ、アイツ頭ガイイカラネエ、東京駅ハオレノ家ダト言ッチャテネエ、マイッチャテネエ、オレノ妾宅《しょうたく》ハ丸ビルダト言ッタラ、コンドハ向ウガマイッチャテネエ、……」という工合《ぐあ》いの何一つ面白くも、可笑《おか》しくもない冗談がいつまでも、ペラペラと続き、私は日本の酔客のユウモア感覚の欠如に、いまさらながらうんざりして、どんなにその紳士と主人が笑い合っても、こちらは、にこりともせず酒を飲み、屋台の傍をとおる師走ちかい人の流れを、ぼんやり見ているばかりなのである。
紳士は、ふいと私の視線をたどって、そうして、私と同様にしばらく屋台の外の人の流れを眺《なが》め、だしぬけに大声で、
「ハロー、メリイ、クリスマアス。」
と叫んだ。アメリカの兵士が歩いているのだ。
何というわけもなく、私は紳士のその諧《かい》ぎゃくにだけは噴《ふ》き出した。
呼びかけられた兵士は、とんでもないというような顔をして首を振り、大股《おおまた》で歩み去る。
「この、うなぎも食べちゃおうか
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