いて食べたりしていた。しかし、どうしても、あきらめ切れない。
 一方、女どもの言い争いは、いつまでもごたごた続いている。
 私は立上って、帰ると言った。
 お篠は、送ると言った、私たちは、どやどやと玄関に出た。あ、ちょっと、と言って、私は飛鳥の如く奥の部屋に引返し、ぎょろりと凄くあたりを見廻し、矢庭《やにわ》にお膳の寒雀二羽を掴《つか》んでふところにねじ込み、それからゆっくり玄関へ出て行って、
「わすれもの。」と嗄《しゃが》れた声で嘘を言った。
 お篠はお高祖頭巾をかぶって、おとなしく私の後について来た。私は早く下宿へ行って、ゆっくり二羽の寒雀を食べたいとそればかり思っていた。二人は雪路を歩きながら、格別なんの会話も無い。
 下宿の門はしまっていた。
「ああ、いけない。しめだしを食っちゃった。」
 その家の御主人は厳格なひとで、私の帰宅のおそすぎる時には、こらしめの意味で門をしめてしまうのである。
「いいわよ。」とお篠は落ちついて、「知ってる旅館がありますから。」
 引返して、そのお篠の知っている旅館に案内してもらった。かなり上等の宿屋である。お篠は戸を叩いて番頭を起し、私の事をたのん
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