たから、そのつもりでいて下さい。」
二人の朋輩は、イヤな顔をした。そうして、二人で顔を見合せ、何か眼で語り、それから二人のうちの若いほうの芸者が膝を少しすすめて、
「ねえさん、それは本気?」と怒っているような口調で問うた。
「ああ、本気だとも、本気だとも。」
「だめですよ。間違っています。」と若い子は眉《まゆ》をひそめてまじめに言い、それから私にはよくわからない「花柳隠語」とでもいうような妙な言葉をつかって、三人の紋附の芸者が大いに言い争いをはじめた。
しかし、私の思いは、ただ一点に向って凝結されていたのである。炬燵の上にはお料理のお膳《ぜん》が載せられてある。そのお膳の一|隅《ぐう》に、雀焼《すずめや》きの皿がある。私はその雀焼きが食いたくてならぬのだ。頃しも季節は大寒《だいかん》である。大寒の雀の肉には、こってりと油が乗っていて最もおいしいのである。寒雀《かんすずめ》と言って、この大寒の雀は、津軽の童児の人気者で、罠《わな》やら何やらさまざまの仕掛けをしてこの人気者をひっとらえては、塩焼きにして骨ごとたべるのである。ラムネの玉くらいの小さい頭も全部ばりばり噛《か》みくだいてたべ
前へ
次へ
全19ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング