ら、とにかく冬の、しかも大寒《だいかん》の頃の筈である。どうしても大寒の頃でなければならぬわけがあるのだが、しかし、そのわけは、あとで言う事にして、何の宴会であったか、四五十人の宴会が弘前の或る料亭でひらかれ、私が文字どおりその末席に寒さにふるえながら坐っていた事から、この話をはじめたほうがよさそうである。
あれは何の宴会であったろう。何か文芸に関係のある宴会だったような気もする。弘前の新聞記者たち、それから町の演劇研究会みたいなもののメンバー、それから高等学校の先生、生徒など、いろいろな人たちで、かなり多人数の宴会であった。高等学校の生徒でそこに出席していたのは、ほとんど上級生ばかりで、一年生は、私ひとりであったような気がする。とにかく、私は末席であった。絣《かすり》の着物に袴《はかま》をはいて、小さくなって坐っていた。芸者が私の前に来て坐って、
「お酒は? 飲めないの?」
「だめなんだ。」
当時、私はまだ日本酒が飲めなかった。あのにおいが厭《いや》でたまらなかった。ビイルも飲めなかった。にがくて、とても、いけなかった。ポートワインとか、白酒とか、甘味のある酒でなければ飲めなかっ
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