、長女、次男、次女、おのおの工夫に富んだ朗読法でもって読み終り、最後に長兄は、憂国の熱弁のような悲痛な口調で読み上げた。次男は、噴き出したいのを怺《こら》えていたが、ついに怺えかねて、廊下へ逃げ出した。次女は、長男の文才を軽蔑し果てたというような、おどけた表情をして、わざと拍手をしたりした。生意気なやつである。
 全部、読み終った頃には、祖父は既に程度を越えて酔っていた。うまい、皆うまい、なかでもルミ(次女の名)がうまかった、とやはり次女を贔屓《ひいき》した。けれども、と酔眼を見ひらき意外の抗議を提出した。
「王子とラプンツェルの事ばかり書いて、王さまと、王妃さまの事には、誰もちっとも触れなかったのは残念じゃ。初枝が、ちょっと書いていたようだが、あれだけでは足りん。そもそも、王子がラプンツェルと結婚出来たのも、またそれから末永く幸福に暮せたのも、みなこれひとえに、王さまと王妃さまの御慈愛のたまものじゃ。王さまと王妃さまに、もし御理解が無かったら、王子とラプンツェルとが、どんなに深く愛し合っていたとしても滅茶苦茶じゃ。だからして、王さまと王妃さまの深き御寛容を無視しては、この物語は成立せ
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