「ごめんなさい。あなたが、へんに真面目なので、つい笑っちゃったの。あたしが今さら、どこへ行けるの? あたしが、あなたを塔の中で四年も待っていたのです。」沼のほとりに着きました。ラプンツェルは、こんどは泣きたくなって、岸の青草の上に崩れるように坐りました。王子の顔を見上げて、「王さまも、王妃さまも、おゆるし下さったの?」
「もちろんさ。」王子は再び以前の、こだわらぬ笑顔にかえってラプンツェルの傍に腰をおろし、「君は、私の命の恩人じゃないか。」
 ラプンツェルは、王子の膝に顔を押しつけて泣きました。
 それから数日後、お城では豪華な婚礼の式が挙げられました。その夜の花嫁は、翼を失った天使のように可憐《かれん》に震えて居りました。王子には、この育ちの違った野性の薔薇が、ただもう珍らしく、ひとつき、ふたつき暮してみると、いよいよラプンツェルの突飛な思考や、残忍なほどの活溌な動作、何ものをも恐れぬ勇気、幼児のような無智な質問などに、たまらない魅力を感じ、溺れるほどに愛しました。寒い冬も過ぎ、日一日と暖かになり、庭の早咲きの花が、そろそろ開きかけて来た頃、二人は並んで庭をゆっくり歩きまわって居り
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