わ。」ラプンツェルは本気に残念がって、そう言ったのでしたが、王子はそれをラプンツェルのお道化と解して、大いに笑い興じ、
「そうかね。そうであったかね。それはお気の毒だったねえ。」と言って、また大声を挙げて笑うのでした。
なんという花か、たいへん匂いの強い純白の小さい花が見事に咲き競っている茨《いばら》の陰にさしかかった時、王子は、ふいと立ちどまり一瞬まじめな眼つきをして、それからラプンツェルの骨もくだけよとばかり抱きしめて、それから狂った人のような意外の動作をいたしました。ラプンツェルは堪え忍びました。はじめての事でもなかったのでした。森から遁《のが》れて荒野を夜ひる眠らず歩いている途中に於いても、これに似た事が三度あったのでした。
「もう、どこへも行かないね?」と王子は少し落ちついて、ラプンツェルと並んでまた歩き出し、低い声で言いました。二人は白い花の茨の陰から出て、水蓮《すいれん》の咲いている小さい沼のほうへ歩いて行きます。ラプンツェルは、なぜだか急に可笑しくなって、ぷっと噴き出しました。
「何。どうしたの?」と王子は、ラプンツェルの顔を覗き込んで尋ねました。「何が可笑しいの?」
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