ていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めてそのところを指摘し、大声|叱咤《しった》、説明に努力したが、徒労であった。弟妹たちは、どうだか、と首をかしげて、にやにや笑っているだけで、一向に興奮の色を示さぬ。いったいに弟妹たちは、この兄を甘く見ている。なめている風《ふう》がある。
 長女は、二十六歳。いまだ嫁《とつ》がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよく出来た。背丈が、五尺三寸あった。すごく、痩《や》せている。弟妹たちに、馬、と呼ばれる事がある。髪を短く切って、ロイド眼鏡をかけている。心が派手で、誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕して、捨てられる。それが、趣味である。憂愁、寂寥《せきりょう》の感を、ひそかに楽しむのである。けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられた時には、その時だけは、流石《さすが》に、しんからげっそりして、間《ま》の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸《くび》に繃帯《ほうたい》を巻いて、やたらに咳《せき》をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲン
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