ました。ラプンツェルは、みごもっていました。
「不思議だわ。ほんとうに、不思議。」
「また、疑問が生じたようだね。」王子は二十一歳になったので少し大人びて来たようです。「こんどは、どんな疑問が生じたのか、聞きたいものだね。先日は、神様が、どこにいるのかという偉い御質問だったね。」
ラプンツェルは、うつむいて、くすくす笑い、
「あたしは、女でしょうか。」と言いました。
王子は、この質問には、まごつきました。
「少くとも、男ではない。」と、もったいぶった言いかたをしました。
「あたしも、やはり、子供を産んで、それからお婆さんになるのでしょうか。」
「美しいお婆さんになるだろう。」
「あたし、いやよ。」ラプンツェルは、幽《かす》かに笑いました。とても淋しい笑いでした。「あたしは、子供を産みません。」
「そりゃ、また、どういうわけかね。」王子は余裕のある口調で尋ねます。
「ゆうべも眠らずに考えました。子供が生れると、あたしは急にお婆さんになるし、あなたは子供ばかりを可愛がって、きっと、あたしを邪魔になさるでしょう。誰も、あたしを可愛がってくれません。あたしには、よくわかります。あたしは、育ちの卑しい馬鹿な女ですから、お婆さんになって汚くなってしまったら、何の取りどころも無くなるのです。また森へ帰って、魔法使いにでもなるより他はありませぬ。」
王子は不機嫌になりました。
「君は、まだ、あのいまわしい森の事を忘れないのか。君のいまの御身分を考えなさい。」
「ごめんなさい。もう綺麗に忘れているつもりだったのに、ゆうべの様な淋しい夜には、ふっと思い出してしまうのです。あたしの婆さんは、こわい魔法使いですが、でも、あたしをずいぶん甘やかして育てて下さいました。誰もあたしを可愛がらないようになっても、森の婆さんだけは、いつでも、きっと、あたしを小さい子供のように抱いて下さるような気がするのです。」
「私が傍《そば》にいるじゃないか。」王子は、にがり切って言いました。
「いいえ、あなたは駄目。あなたは、あたしを、ずいぶん可愛がって下さいましたが、ただ、あたしを珍らしがってお笑いになるばかりで、あたしは何だか淋しかったのです。いまに、あたしが子供を産んだら、あなたは今度は子供のほうを珍らしがって、あたしを忘れてしまうでしょう。あたしはつまらない女ですから。」
「君は、ご自分の美しさに
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