めくら草紙
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蒼空《あおぞら》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|臥《ふ》したる。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから7字下げ]
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[#ここから7字下げ]
なんにも書くな。なんにも読むな。なんにも思うな。ただ、生きて在れ!
[#ここで字下げ終わり]
太古のすがた、そのままの蒼空《あおぞら》。みんなも、この蒼空にだまされぬがいい。これほど人間に酷薄《こくはく》なすがたがないのだ。おまえは、私に一箇の銅貨をさえ与えたことがなかった。おれは死ぬるともおまえを拝まぬ。歯をみがき、洗顔し、そのつぎに縁側の籐椅子《とういす》に寝て、家人の洗濯の様をだまって見ていた。盥《たらい》の水が、庭のくろ土にこぼれ、流れる。音もなく這《は》い流れるのだ。水到りて渠《きょ》成る。このような小説があったなら、千年万年たっても、生きて居る。人工の極致と私は呼ぶ。
鋭い眼をした主人公が、銀座へ出て片手あげて円タクを呼びとめるところから話がはじまり、しかもその主人公は高《
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