任とは、その事でした。私は、どうやら、大任を果しました。そうしていま宿へ帰って、君へ詐《いつわ》らぬ報告をしたためているところなのです。
 けさ、新潟へ着いたのです。駅には、生徒が二人、迎えに来ていました。学芸部の委員なのかも知れません。私たちは駅から旅館まで歩きました。何丁くらいあったのでしょう。私は、ご存じのように距離の測定が下手なので、何丁程とも申し上げられませんが、なんでも二十分ちかく歩きました。新潟の街は、へんに埃っぽく乾いていました。捨てられた新聞紙が、風に吹かれて、広い道路の上を模型の軍艦のように、素早くちょろちょろ走っていました。道路は、川のように広いのです。電車のレエルが無いから、なおの事、白くだだっ広く見えるのでしょう。万代橋も渡りました。信濃《しなの》川の河口です。別段、感慨もありませんでした。東京よりは、少し寒い感じです。マントを着て来ないのを、残念に思いました。私は久留米絣《くるめがすり》に袴《はかま》をはいて来ました。帽子は、かぶって来ませんでした。毛糸の襟巻《えりまき》と、厚いシャツ一枚は、かばんに容れて持って来ました。旅館へ着いて、私は、すぐに寝てしまい
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