け生きているのにお気が附かれないのですか。あなたは、家へおいでになるお客様たちに先生と呼ばれて、誰かれの画を、片端からやっつけて、いかにも自分と同じ道を歩むものは誰も無いような事をおっしゃいますが、もし本当にそうお思いなら、そんなに矢鱈《やたら》に、ひとの悪口をおっしゃってお客様たちの同意を得る事など、要らないと思います。あなたは、お客様たちから、その場かぎりの御賛成でも得たいのです。なんで孤高な事がありましょう。そんなに来る人、来る人に感服させなくても、いいじゃありませんか。あなたは、とても嘘《うそ》つきです。昨年、二科から脱退して、新浪漫派とやらいう団体を、お作りになる時だって、私は、ひとりで、どんなに惨《みじ》めな思いをしていた事でしょう。だって、あなたは、蔭であんなに笑って、ばかにしていたおかた達ばかりを集めて、あの団体を、お作りになったのでございますもの。あなたには、まるで御定見が、ございません。この世では、やはり、あなたのような生きかたが、正しいのでしょうか。葛西《かさい》さんがいらした時には、お二人で、雨宮さんの悪口をおっしゃって、憤慨したり、嘲笑《ちょうしょう》したりし
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