ふんと笑われますと、つらいので、記憶しているだけの事を、はっきり申し上げました。いま、こんな事を申し上げるのは、決して、あなたへの厭《いや》がらせのつもりでも何でもございません。それは、お信じ下さい。私は、困ります。他のいいところへお嫁に行けばよかった等と、そんな不貞な、ばかな事は、みじんも考えて居りませんのですから。あなた以外の人は、私には考えられません。いつもの調子で、お笑いになると、私は困ってしまいます。私は本気で、申し上げているのです。おしまい迄《まで》お聞き下さい。あの頃も、いまも、私は、あなた以外の人と結婚する気は、少しもありません。それは、はっきりしています。私は子供の時から、愚図々々が何より、きらいでした。あの頃、父に、母に、また池袋の大姉さんにも、いろいろ言われ、とにかく見合いだけでも等と、すすめられましたが、私にとっては、見合いもお祝言《しゅうげん》も同じものの様な気がしていましたから、かるがると返事は出来ませんでした。そんなおかたと結婚する気は、まるっきり無かったのです。みんなの言う様に、そんな、申しぶんの無いお方《かた》だったら、殊更《ことさら》に私でなくても、
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