も、新聞でもあんなに、ひどくほめられるし、出品の画が、全部売り切れたそうですし、有名な大家《たいか》からも手紙が来ますし、あんまり、よすぎて、私は恐しい気が致しました。会場へ、見に来いと、あなたにも、但馬さんにも、あれほど強く言われましたけれど、私は、全身震えながら、お部屋で編物ばかりしていました。あなたの、あの画が、二十枚も、三十枚も、ずらりと並んで、それを大勢の人たちが、眺《なが》めている有様を、想像してさえ、私は泣きそうになってしまいます。こんなに、いい事が、こんなに早く来すぎては、きっと、何か悪い事が起るのだとさえ、考えました。私は、毎夜、神様に、お詫《わ》びを申しました。どうか、もう、幸福は、これだけでたくさんでございますから、これから後、あの人が病気などなさらぬよう、悪い事の起らぬよう、お守り下さい、と念じていました。あなたは毎夜、但馬さんに誘われて、ほうぼうの大家《たいか》のところへ挨拶《あいさつ》に参ります。翌朝お帰りの事も、ございましたが、私は別に何とも思っていないのに、あなたは、それは精《くわ》しく前夜の事を私に語って下さって、何先生は、どうだとか、あれは愚物だとか
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