かすかな声
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)拠《よ》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)妥協したい[#「したい」に傍点]
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 信じるより他は無いと思う。私は、馬鹿正直に信じる。ロマンチシズムに拠《よ》って、夢の力に拠って、難関を突破しようと気構えている時、よせ、よせ、帯がほどけているじゃないか等と人の悪い忠告は、言うもので無い。信頼して、ついて行くのが一等正しい。運命を共にするのだ。一家庭に於いても、また友と友との間に於いても、同じ事が言えると思う。

 信じる能力の無い国民は、敗北すると思う。だまって信じて、だまって生活をすすめて行くのが一等正しい。人の事をとやかく言うよりは、自分のていたらくに就《つ》いて考えてみるがよい。私は、この機会に、なお深く自分を調べてみたいと思っている。絶好の機会だ。

 信じて敗北する事に於いて、悔いは無い。むしろ永遠の勝利だ。それゆえ人に笑われても恥辱《ちじょく》とは思わぬ。けれども、ああ、信じて成功したいものだ。この歓喜!

 だまされる人よりも、だます人のほうが、数十倍く
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