むぜ、若旦那。私は、かう見えても、あなたに御恩がへしをしたくて、あれから毎日毎晩、この浜へ来て若旦那のおいでを待つてゐたのだ。」
「それは、浅慮といふものだ。或いは、無謀とも言へるかも知れない。また子供たちに見つかつたら、どうする。こんどは、生きては帰られまい。」
「気取つてゐやがる。また捕まへられたら、また若旦那に買つてもらふつもりさ。浅慮で悪うござんしたね。私は、どうしたつて若旦那に、もう一度お目にかかりたかつたんだから仕様がねえ。この仕様がねえ、といふところが惚れた弱味よ。心意気を買つてくんな。」
浦島は苦笑して、
「身勝手な奴だ。」と呟く。亀は聞きとがめて、
「なあんだ、若旦那。自家撞着してゐますぜ。さつきご自分で批評がきらひだなんておつしやつてた癖に、ご自分では、私の事を浅慮だの無謀だの、こんどは身勝手だの、さかんに批評してやがるぢやないか。若旦那こそ身勝手だ。私には私の生きる流儀があるんですからね。ちつとは、みとめて下さいよ。」と見事に逆襲した。
浦島は赤面し、
「私のは批評ではない、これは、訓戒といふものだ。諷諫、といつてもよからう。諷諫、耳に逆ふもその行を利す、とい
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