それがいやらしくて仕様が無かつたんですよ。ちやうどいい案配だ。あなたが、あの若い女のお客さんを逃がしてしまつたのなら、身代りにこの雀の舌を抜きます。いい気味だ。」掌中の雀の嘴をこじあけて、小さい菜の花びらほどの舌をきゆつとむしり取つた。
雀は、はたはたと空高く飛び去る。
お爺さんは、無言で雀の行方を眺めてゐる。
さうして、その翌日から、お爺さんの大竹藪探索がはじまるわけである。
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シタキリ スズメ
オヤドハ ドコダ
シタキリ スズメ
オヤドハ ドコダ
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毎日毎日、雪が降り続ける。それでもお爺さんは何かに憑かれたみたいに、深い大竹藪の中を捜しまはる。藪の中には、雀は千も万もゐる。その中から、舌を抜かれた小雀を捜し出すのは、至難の事のやうに思はれるが、しかし、お爺さんは異様な熱心さを以て、毎日毎日探索する。
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シタキリ スズメ
オヤドハ ドコダ
シタキリ スズメ
オヤドハ ドコダ
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お爺さんにとつて、こんな、がむしやらな情熱を以て行動するのは、その生涯に於いて、いち
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