だ、そのころはランプゆえ部屋は薄暗いものでしたが、それでもフランネルのシャツは、純白に光って、燃えているようでした。一夜明けて修業式の朝、起きて素早くシャツを着込み、あるときは、年とった女中に内緒《ないしょ》にたのんで、シャツの袖口のボタンを、更に一つずつ多く縫いつけさせたこともありました。賞品をもらうときシャツの袖がちらと出て、貝のボタンが三つも四つも、きらきら光り輝くように企てたのでした。家を出て、学校へ行く途々《みちみち》も、こっそり両腕を前方へ差し出し、賞品をもらう真似をして、シャツの袖が、あまり多くもなく、少くもなく、ちょうどいい工合《ぐあ》いに出るかどうか、なんどもなんども下検分してみるのでした。
誰にも知られぬ、このような侘《わ》びしいおしゃれは、年一年と工夫に富み、村の小学校を卒業して馬車にゆられ汽車に乗り十里はなれた県庁所在地の小都会へ、中学校の入学試験を受けるために出掛けたときの、そのときの少年の服装は、あわれに珍妙なものでありました。白いフランネルのシャツは、よっぽど気に入っていたものとみえて、やはり、そのときも着ていました。しかも、こんどのシャツには蝶々の翅《
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