帳《かや》に寝ているのです。
「お寺へ。」
口から出まかせに、いい加減の返事をして、そうして、言ってしまってから、何だかとんでも無い不吉な事を言ったような気がして、肌寒《はださむ》くなりました。
「お寺へ? 何しに?」
「お盆《ぼん》でしょう? だから、お父さまが、お寺まいりに行ったの。」
嘘《うそ》が不思議なくらい、すらすらと出ました。本当にその日は、お盆の十三日でした。よその女の子は、綺麗《きれい》な着物を着て、そのお家の門口《かどぐち》に出て、お得意そうに長い袂《たもと》をひらひらさせて遊んでいるのに、うちの子供たちは、いい着物を戦争中に皆焼いてしまったので、お盆でも、ふだんの日と変らず粗末な洋服を着ているのです。
「そう? 早く帰って来るかしら。」
「さあ、どうでしょうね。マサ子が、おとなしくしていたら、早くお帰りになるかも知れないわ。」
とは言ったが、しかし、あのご様子では、今夜も外泊にきまっています。
マサ子はお勝手にあがって、それから三畳間へ行き、三畳間の窓縁《まどべり》に淋しそうに腰かけて外を眺《なが》め、
「お母さま、マサ子のお豆に花が咲いているわ。」
と呟
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