あさましきもの
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)首肯《うなず》いた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから7字下げ]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わななく/\久しうありて
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[#ここから7字下げ]
賭弓《のりゆみ》に、わななく/\久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。
[#ここで字下げ終わり]

 こんな話を聞いた。
 たばこ屋の娘で、小さく、愛くるしいのがいた。男は、この娘のために、飲酒をやめようと決心した。娘は、男のその決意を聞き、「うれしい。」と呟《つぶや》いて、うつむいた。うれしそうであった。「僕の意志の強さを信じて呉れるね?」男の声も真剣であった。娘はだまって、こっくり首肯《うなず》いた。信じた様子であった。
 男の意志は強くなかった。その翌々日、すでに飲酒を為した。日暮れて、男は蹌踉《そうろう》、たばこ屋の店さきに立った。
「すみません」と小声で言って、ぴょこんと頭をさげた。真実わるい、と思っていた。娘は、笑っていた。
「こん
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