ことかと思った。よかったねえ。」
 早稲田界隈の下宿街は、井伏さんに一生つきまとい、井伏さんは阿佐ヶ谷方面へお逃げになっても、やっぱり追いかけて行くだろう。
 井伏さんと下宿生活。
 けれども、日本の文学が、そのために、一つの重大な収穫を得たのである。

     第四巻

 れいに依って、発表の年代順に、そうして著者みずからのその作品に対する愛着の程をも考慮し、この巻には以上の如き作品を収録することにした。  
 気がついてみると、その作品の大部分は、「旅」に於ける収穫のように見受けられるのだ。
 第三巻の後記に於て、私は井伏さんと早稲田界隈との因果関係に触れたが、その早稲田界隈に優るとも劣らぬ程のそれこそ「宿命的」と言ってもいいくらいの、縁が、井伏さんの文学と「旅」とにつながっていると言いたい気持にさえなるのである。
 人間の一生は、旅である。私なども、女房の傍《そば》に居ても、子供と遊んで居ても、恋人と街を歩いていても、それが自分の所謂「ついに」落ち着くことを得ないのであるが、この旅にもまた、旅行上手というものと、旅行下手というものと両者が存するようである。
 旅行下手というもの
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