「晩年」に就いて
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)出鱈目《でたらめ》
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「晩年」は、私の最初の小説集なのです。もう、これが、私の唯一の遺著になるだろうと思いましたから、題も、「晩年」として置いたのです。
読んで面白い小説も、二、三ありますから、おひまの折に読んでみて下さい。
私の小説を、読んだところで、あなたの生活が、ちっとも楽になりません。ちっとも偉くなりません。なんにもなりません。だから、私は、あまり、おすすめできません。
「思い出」など、読んで面白いのではないでしょうか。きっと、あなたは、大笑いしますよ。それでいいのです。「ロマネスク」なども、滑稽な出鱈目《でたらめ》に満ち満ちていますが、これは、すこし、すさんでいますから、あまり、おすすめできません。
こんど、ひとつ、ただ、わけもなく面白い長篇小説を書いてあげましょうね。いまの小説、みな、面白くないでしょう?
やさしくて、かなしくて、おかしくて、気高くて、他に何が要るのでしょう。
あのね、読んで面白くない小説はね、それは、下手な小説なのです。こわいことなんかない。面白くない
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