祕的象徴主義からみた君は如何なる詩人であるか。

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「僕は長い以前から僕自身の眞に希求する、もつとぴつたり合致する作品をみないで善いといふならば大抵の作品は何處かが善く、惡いといふならば大抵の作品はその何處かが惡いと言はれ得る程度のものに見えたが、近頃殆んど僕の希求に近い藝術家を見出すことが出來て非常に心強くもうれしく思つて居る。それは詩人としての山村暮鳥氏である。作品を通じてみた氏はどうしても僕自身の主張する神祕象徴主義の具現せられたものであると思つてゐたが、今や氏の創作の態度などを聞知するに及んで益※[#二の字点、1−2−22]その感を強めることができた。氏の如く卓越した藝術家を其の眞價に於てみとめ得ず理解し得ない一般文壇は全く藝術家を待遇するの途を知らぬものと言はねばならない。」
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 而もいまは君に就てこんな嘆聲を漏らす必要もなく、君の詩はすべての眞面目なる人々の驚異となつてゐる。きれぎれにみてゐた君の詩がまとまつて一册となり、どつしりした重みで日光の中へでる時、まことの生《いのち》の糧に餓ゑてゐる人達のよろこびはどんなであらうぞ! それが目に見えるやうだ。
 次に君について書いたのは「光陰」の「光りにあくがるる詩」の中である。

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「山村氏の詩は確固と掴んでゐるものをそのまゝに表現する。山村氏の詩には宗教家の崇高《けだか》い安定がある。其の態度は感覺の如何なる印象にも打ち勝つてすこしの動搖なく、すべてそれらを同化する。氏の詩からは豫言者のもつ愛情が湧いてでる。氏の世界は全宇宙的であつて自然の一草一石も氏と共通のいのちを持つて居る。氏の感情は世界の創造者のもつであらう感情へ向つてあこがれる。したがつて氏の詩は個人的性格の感情を嚴然として批判し得る普遍的絶對的のものを示してゐる。」
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 此の言葉は最早、君に對してあまりに沈套なそしてあまりに平俗な頌辭となつてしまつてゐる。今、君の詩に讃嘆を惜まぬものは到る所にみることが出來る。
 三度此處に君の詩について何事かをのべようとしても、亦先きの言葉をくり返して君のその豐饒な天分を祝福するより外は無い。僕にとつては。
 山村君
 僕は哲學の一學徒だ。君とはまつたく
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