、人々は一刻も静かに落ち著いてゐる暇がない。若い人達が手軽にその閑を消される喫茶店なるものの流行もまた、少からずこの読書の妨げをなしてゐる。この頃本の売れないのは、全くこの喫茶店の跋扈に由来するのである。今まで若い人達が書物に費してゐた小遣銭の大半は、この喫茶店なる安価で、便利な、時にはいかがはしい青年社交倶楽部に奪ひ去られて仕舞つてゐるのである。出版家連がもつと本を売らうといふなら、彼等は宜しく同盟して、この青年倶楽部撲滅を計るべきだと思ふ。
自分はこの新春《はる》から故グレエ子爵の『二十五年回想記』と『フアロドン雑講』を読んでゐるが、この大戦中の英名外相がその政治的活躍の背景として様々な楽しみ乃至趣味を有つてゐたのに驚く。第一に彼は釣魚《つり》、殊に蚊鉤釣りの名人である。蚊鉤釣りといへば主として河鮭と河鱒を釣るのであるが、英吉利に於けるその季節は毎年九月に終る。三月と四月が最も良く、一月頃からはもう夢の中にもその遊びを心に描いて、それを楽しんでゐた。鮭釣りとなると、船などを仕立てず、岡釣りをするか、脛を没して流を渉つてやるのが実に愉快である。が、これを人に勧めるのは、メレディス
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