趣味としての読書
平田禿木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)席へ立《たち》会つて、
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 最近某大学の卒業論文口頭試問の席へ立《たち》会つて、英文学専攻の卒業生がそれぞれ皆立派な研究を発表してゐるのに感服した。主なる試問者は勿論その論文を精査した二三の教授諸氏であつたが、自分も傍《そば》から折々遊軍的に質問を出して見た。
「理窟は抜きにして、ディツケンスの何んなとこを面白く感じましたか、コンラツドの何んなとこに興味を覚えましたか」と訊くと、
「一向に面白くありません、少しも興味を感じません、論文を書く為めに、唯一生懸命に勉強しただけです」と云ふ。
「では、三年間に、別に何か読みましたか」と訊くと、別に何も読んでゐないといふ、如何にも頼りない返事である。これは一つには学生諸氏の英語の読書力の薄いのに依るのであらうけれど、一つにはまた、今日の若い人達の間に如何に趣味として読書が閑却されてゐるかを示すものである。
 今日ほど読書に不利な時代はない。自動車は走り、飛行機は飛び、映画、トオキイは全盛、音楽でもヂヤズや音頭の騒々しいもののみが幅を利かしてゐるので
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