江戸ッ児の気分はただそれ如此《かくのごとく》である、ただそれ如此である、無邪気と、ザックバランと、人を嫌がらせねえのと、遠慮会釈がないのと、物事がテキパキしておるのと、これらを除いてはかれの生命なるもの殆んど他にこれあるを知らぬ。乞う叙べ来った一つひとつに、吾儕の繰返して以上を説いたことを、何分どうか味って見て頂きたいもので……。
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大晦日
年の瀬の流れながれていよいよおしつもった大晦日、三百六十五日の最終の日にのぞんで、ああまた空しく一年を過ぐしたと嘆ずるは愚痴、そらほどなら毎度のことでもあり、先の先まで見えすいておることを、今更の後悔でもあるまいと、江戸ッ児はそんなことより年忘れ、まず何はともあれの、一杯機嫌で、御厄払いましょう、厄払いになにがしかを包んで、諸々のまがつみを西の海! それで気もサラリとして払いも掛けも勘定万端を早ァくにすませ、朝でなくとも熱いピリリとする奴に一風呂入って、今茲《こんじ》の垢をも綺麗さっぱり、アア正月が待ち遠しいとは自慢でばかりは言わぬ。
されば夜に入っては梅の一鉢も冷かしてきて、福寿草の根じめに植えたるを択び、搗きたてのお
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