わずらって黒眼鏡かけた中年増、若い神さんらしいのもあれば、小狡《こざか》しい中僧もおる。五、七年前まではかなりの骨董屋だったという四十男の店などには、古渡り唐物とか、古代蒔絵とか、仰々しい貼札しての古道具ずらりと陳べて、いやに客の足元から顔色を窺う無気味さ、こうしたのが数多い中には幾たりかあって、同じ仲間から内々では悪く言われても、「わァしどもァこんな処へ出るんじゃごわせんがな」と、少し頭の禿げかかった旦那らしいのを見かけると、妙にこだわって出て、附け時代のいかさま物を正真正銘で通そうとする不埒、折々は旋毛《つむじ》の曲った兄哥などに正体を見すかされて、錫製で化けきろうとした巻|莨《たばこ》入れなどを、「なんでい、こりゃアンチじゃァねえか」と一本きめつけられ、グウの音も出ないところなのを、千枚張りは存じより押しが太く、「おめぇさん一体買うのか買わねえのか。え、買うなら何とでも言いなせえだが、冷かしなら黙って貰おう。ねえ、ほかのお客の邪魔にならァ……」とは鼻ッぱりの強いことこの上もない。但し江戸ッ児にもこんな屑がありがちなは、尠からず心外の至りだ……と、また誰やらが愚痴ッていたッけ!

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