しむる口に芳脂の舌ざわり快く、歯に何の骨折り一つさせぬようなを殊に好しとしてある。さるは江戸ッ児の産湯する多摩川の水に産するを随一とし、秩父の渓流に育つも味は劣れりというではないが、多摩川のに比して骨の硬いが難だ。国府津ものは酒匂川にとれるを一番の上味とし、山北の鮎鮨で東海道を上下するほどの人々は予て馴染だが、これとても骨は硬い。
畢竟若鮎の走りを賞すること、たとえばピンとはねて瀬をも流れをも溯るべく、兼ねては水の清冽なるを愛して、濁りに棲まぬその性にある。
余の人々は如何あろうか、吾儕元よりその意を知らず、ただ江戸ッ児に至っては、ひたぶるにその性を愛して自ら彼の清きにおらんとするからである。
さるにても近頃の多摩川漁夫、或は密漁を企て、生洲飼いをなし、客を見て獲物の多寡を加減するなぞ、江戸ッ児には癪にさわることばかり、これでは折角の鮎が估券を堕しはせぬかと、そんじょそこらの兄哥がいい心配をしておる。
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縁日と露店
縁日趣味、露店趣味は江戸ッ児にして初めてこれを完全に解し得るもの。月の三十日が間、唯の一日都大路の何処にも縁日がないという晩はなく、苟《いや
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