の、振り売りの手合いからは決して買わぬもの、これも三歳以下なはまだ籠なれずして鳴きも歌わず、どうかすると姿ばかりがよく似た蛙めを掴まされることさえある。
飼うには素人にも骨が折れず、生き虫と時々の新しき水を怠らねば誰れにもそそうはなく、鳴きも然るべき鳥屋が売ったのなら請合いである。
行いて聞くには汐入の渡しを綾瀬の流れに入って、溯ることしばし、そこに月影の砕くる瀬ありて、彼の愛すべき声を賞すべし。半宵船をもやいて、ここらあたりに月と河鹿を賞するの風雅人、果して都に幾たりを算え得ることであろうか。
[#改ページ]
走り鮎
鮎は当歳の走りを別して賞美する事、必ずしも江戸ッ児ならずともだが、今では蕃殖を保護するというので、七月十五日までは禁漁とあり、旁名物の多摩川ものはそれ以後でなくば魚河岸にも現れず、二子に赴いても網一つ打つことならねば、江戸ッ児には酷い辛抱ながら、解禁の日よりは河岸にも籠をつむことあり、それまで幅を利かしていた秩父もの、国府津ものなど、漸く片隅に退けられて、これより一しきり、鮎は多摩川に限らるるもおかしい。
凡そ鮎の真味は、その肉よりも骨にあるので、噛み
前へ
次へ
全90ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
柴田 流星 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング