目黒の不動などを主とし、遠くは八王子、青梅などにその大なるものをたずね得べし。
しかし江戸ッ児にはただその雄大なる姿を賞するのみでは承知が出来ず、どうしても素裸の褌一つになり、飛下する水に五体を打たせねばジッとしていられぬ性とて、高雄山なるは浴みもされるが、金刀比羅の滝、独鈷《どっこ》の滝など、見るが主なるはさばかりに好んで足を向けない。――一つは倶利迦羅紋紋の腕から背を、これ見よがしの罪のない誇りを抱く手あいもあるからであろう。
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虫と河鹿
松虫、鈴虫、轡虫《クツワムシ》、さては草雲雀、螽斯《キリギリス》なんど、いずれ野に聞くべきものを美しき籠にして見る都びとの風流は、今も昔に変らぬが、ただこの虫というもの、今は野生のを捕え来て商うのではなくて、大方は人工孵化。走りを好む手合いをお客様にしての商売は、こうした生きものをも造化の下請負せねば間に合わず、一年三百六十五日、己が住居の床下にそれはそれはごたいそうな虫の巣を拵えこんで、無慈悲の冬を囲いもしてやれば、かれらの子孫の蕃殖をもお手伝いする。虫どもに言わしたら、これが吾々の造物主とあがめ奉るかも知れない。
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