の心を両国の空に馳せ、人いきれと混雑とに絞るほどな汗水垢になってもお構いなし、料理屋が二階座敷から見るよりは押すな押すなの人中にあるを面白がり、知るも知らぬも、すぐに十年の知己となった如く、互いに弥次り弥次られ、その騒ぎったら一[#(ト)]通りや二[#(タ)]通りではない。
然るをこの花火、玉屋は火を過って遂にその株を失い、今では鍵屋が独り占めながら、揚げられた花火の賞美には相変らず「玉屋ァい」が多く、殊に口惜しきはかかる類にまで広告に利用して、仕掛花火にビールの広告があらわるるなぞ、何ぼう殺風景の限りだか知れぬ。
両国の川開きもこうなってはお仕舞いだとケチった連中もあるが、これだけは滅ぼしたくないものだ。
それからこの川開きがすむと、続いて芝浦にも花火の催しがある。これはまださのみは古いことでなく、土地の料理店などが、家の寂れを苦にしての思立ちだけに、両国のほど開放的ではないが、それでも澄み切った夏の夜空に、勇ましい響きを聞く時は、何となく心も誘られて悪い気持ちはしない。旁《かたがた》以て鍵屋の苦心も、始終に算盤との談合は第二として、いずれとも江戸ッ児の嫌がるような広告花火はま
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