縁結びと男を呼ぶ女と、女に買わるる男と、銘酒屋と新聞縦覧所と楊弓店と、更には大金と一直と草津とがある。独り老男老女に取っては伝法院と一寸八分の観世音菩薩と淡島様とに彼の趣味を伴う。ここには説法と利生とあらたかとが存する。
 もしそれ三社様に至っては、浜成、武成の兄弟と仲知とが遠く推古帝の御宇、一日宮戸川に網して一寸八分の黄金仏(観世音菩薩)を得たという詩のような伝説、吾儕は敢えて彼これその詮索をなすを欲せず、かばかりにロマンティックな語りぐさをいつまでも保全して、徒なる解釈をこれに試みたくないと思う。
 更に今一つの伝説を語らば、二[#(タ)]昔以前に掘り出された洗手池畔の六地蔵である。伝え聞くに小野小町が工人に命じて作らしめたところ、六角の灯籠にしてその各面に地蔵尊六体を彫む。一夜この六地蔵、木萱も眠る丑満つ時に脱け出でて池畔に相会し、久しい間背中合せの逢いたくても逢われずにいたことを嘆《かこ》って、今の邂逅を喜びかわすその時、山門の仁王両個夜まわりに出でて初めてそれあるを知り、爾来今の如く金網の中にござるという。
 浅草の趣味は絵画的である。浅草の趣味は詩歌的である。浅草の趣味はロ
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