しておいおい泣出した。吸筒《すいづつ》が倒れる、中から水――といえば其時の命、命の綱、いやさ死期《しご》を緩《ゆる》べて呉れていようというソノ霊薬が滾々《ごぼごぼ》と流出る。それに心附いた時は、もうコップ半分も残ってはいぬ時で、大抵はからからに乾燥《はしゃ》いで咽喉《のど》を鳴らしていた地面に吸込まれて了っていた。
 この情ない目を見てからのおれの失望落胆と云ったらお話にならぬ。眼を半眼《はんがん》に閉じて死んだようになっておった。風は始終|向《むき》が変って、或は清新な空気を吹付けることもあれば、又或は例の臭気に嗔咽《むせ》させることもある。此日隣のは弥々《いよいよ》浅ましい姿になって其惨状は筆にも紙にも尽されぬ。一度|光景《ようす》を窺《うかが》おうとして、ヒョッと眼を開《あ》いて視て、慄然《ぞっ》とした。もう顔の痕迹《あとかた》もない。骨を離れて流れて了ったのだ。無気味《ぶきび》にゲタと笑いかけて其儘固まって了ったらしい頬桁《ほおげた》の、その厭らしさ浅ましさ。随分|髑髏《されこうべ》を扱って人頭の標本を製した覚もあるおれではあるが、ついぞ此様《こん》なのに出逢ったことがない。こ
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