わすれ》たようで、全く憶出《おもいだ》せず、何となく痛《いたみ》に慣《なじ》んだ形だ。一間ばかりの所を一朝かかって居去《いざ》って、旧《もと》の処へ辛《かろ》うじて辿着《たどりつ》きは着いたが、さて新鮮の空気を呼吸し得たは束の間、尤も形の徐々《そろそろ》壊出《くずれだ》した死骸を六歩と離れぬ所で新鮮の空気の沙汰も可笑《おか》しいかも知れぬが――束の間で、風が変って今度は正面《まとも》に此方《こっち》へ吹付ける、その臭さに胸がむかつく。空《から》の胃袋は痙攣《けいれん》を起したように引締って、臓腑《ぞうふ》が顛倒《ひッくりかえ》るような苦しみ。臭い腐敗した空気が意地悪くむんむッと煽付《あおりつ》ける。
精も根も尽果てて、おれは到頭泣出した。
全く敗亡《まいっ》て、ホウとなって、殆ど人心地なく臥《ね》て居《おっ》た。ふッと……いや心の迷の空耳かしら? どうもおれには……おお、矢張《やっぱり》人声だ。蹄《ひづめ》の音に話声。危なく声を立てようとして、待てしばし、万一《ひょっと》敵だったら、其の時は如何《どう》する? この苦しみに輪を掛けた新聞で読んでさえ頭《かみ》の髪《け》の弥竪《よだ
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