あるが、此様《こん》な男を戦場へ引張り出すとは、運命の神も聞えぬ。一体何者だろう? 俺のように年寄《としと》った母親が有《あろ》うも知《しれ》ぬが、さぞ夕暮ごとにいぶせき埴生《はにゅう》の小舎《こや》の戸口に彳《たたず》み、遥《はるか》の空を眺《ながめ》ては、命の綱の※[#「てへん+爭」、第4水準2−13−24]人《かせぎにん》は戻らぬか、愛《いと》し我子の姿は見えぬかと、永く永く待わたる事であろう。
さておれの身は如何《どう》なる事ぞ? おれも亦《また》まツこの通り……ああ此男が羨《うらや》ましい! 幸福者《あやかりもの》だよ、何も聞《きか》ずに、傷の痛みも感ぜずに、昔を偲ぶでもなければ、命惜しとも思うまい。銃劒が心臓の真中心《まッただなか》を貫いたのだからな。それそれ軍服のこの大きな孔《あな》、孔《あな》の周囲《まわり》のこの血。これは誰《たれ》の業《わざ》? 皆こういうおれの仕業《しわざ》だ。
ああ此様《こん》な筈ではなかったものを。戦争に出《で》たは別段悪意があったではないものを。出《で》れば成程人殺もしようけれど、如何《どう》してかそれは忘れていた。ただ飛来《とびく》る弾
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