おれの面《かお》を看た其口から血が滴々々《たらたらたら》……いや眼に見えるようだ。眼に見えるようなは其而已《そればかり》でなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端《ではずれ》の蓊鬱《こんもり》と生茂《はえしげ》った山査子《さんざし》の中に、居《お》るわい、敵が。大きな食肥《くらいふとッ》た奴であった。俺は痩の虚弱《ひよわ》ではあるけれど、やッと云って躍蒐《おどりかか》る、バチッという音がして、何か斯う大きなもの、トサ其時は思われたがな、それがビュッと飛で来る、耳がグヮンと鳴る。打たなと気が付た頃には、敵の奴めワッと云て山査子《さんざし》の叢立《むらだち》に寄懸《よりかか》って了った。匝《まわ》れば匝《まわ》られるものを、恐しさに度を失って、刺々《とげとげ》の枝の中へ片足|踏込《ふんごん》で躁《あせ》って藻掻《もが》いているところを、ヤッと一撃《ひとうち》に銃を叩落して、やたら突《づき》に銃劔をグサと突刺《つッさ》すと、獣《けもの》の吼《ほえ》るでもない唸《うな》るでもない変な声を出すのを聞捨にして駈出す。味方はワッワッと鬨《とき》を作って、倒《こ》ける、射《う》つ、という真最中。俺も森
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