どよく育ったやつは、ブラジルへ行ったってめったには見られませんよ。私どもは、植物たちが温室の中にいても、野育ちの場合とまったく同様に思うさま伸びられるように、知能を傾けたものですが、私にはどうやら、多少の成功を収めたように思われますよ。」
 そう言いながら、園長はさも得意そうな面もちで、ステッキをあげてその丈夫な木膚をたたいて見せるのでした。するとその音は、温室じゅうにびんびん響きわたるのでした。しゅろはこの打擲《ちょうちゃく》にたえかねて、葉をわなわなとふるわせるのでありました。おお、もしも彼女に声があったなら、どんなに物すごい忿怒《ふんぬ》の叫びを、園長は耳にしたことでありましょうか。
『あの人は、あたしがこうして伸びるのを、あの人を喜ばせるためだと思ってるんだわ』と、アッタレーアは心につぶやくのでした、『勝手にそう思うがいい!』
 そして彼女は、あらん限りの樹液をひたすら伸びるために使って、根や葉にまわる樹液をまで奪いながら、ぐんぐん伸びて行きました。時おり彼女には、円天井までの距離がいっこうに縮まらないような気がするのでした。すると彼女は力いっぱいに気ばるのです。そうこうする内に、わくはだんだん近くなって、とうとう一枚の若葉が、ひやりと冷たいガラスと鉄わくにさわりました。
「ご覧よ、ご覧よ」と草木はどよめき立ちました、「とうとうとどいちまったわ! 本当にやる気なのかねえ?」
「まったくおっかないほど伸びたもんだなあ!」と、木みたいなかっこうのわらびが申しました。
「へん、伸びたが何ですかね! なんと珍妙なかっこうじゃありませんか! これこの私みたいにふとれたら、それこそ大したもんですけれどねえ!」と、ビヤだるみたいな胴をした、ふとっちょのそてつが申しました、「それにまた、ひょろ長くなったところで何になりますかね? 結局なに一つできはしませんよ。格子はがんじょうだし、ガラスは厚いんですものね。」
 また一と月たちました。アッタレーアはもっと高くなって、とうとうしまいには、ぴんと鉄わくにつっぱってしまいました。もうそれ以上は伸びる場所がありません。そこで幹はしないはじめました。大きな葉のむらがり茂ったてっぺんのところは、もみくしゃになりました。わくとりの冷たい鉄棒が、柔らかな若葉の膚へくい入って、ずたずたに引き裂いたり、みじめなかっこうに押しひしゃげたりしました
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