あったならば汝の生涯はまことに頼もしい」といって喜んでくれました。ところが不意にキリスト教に接し、通常この国において説かれましたキリスト教の教えを受けたときには、青年のときに持ったところの千載青史に列するを得んというこの欲望が大分なくなってきました。それで何となく厭世的《えんせいてき》の考えが起ってきた。すなわち人間が千載青史に列するを得んというのは、まことにこれは肉欲的、不信者的、heathen 《ヒーゼン》的の考えである、クリスチャンなどは功名を欲することはなすべからざることである、われわれは後世に名を伝えるとかいうことは、根コソギ取ってしまわなければならぬ、というような考えが出てきました。それゆえに私の生涯は実に前の生涯より清い生涯になったかも知れませぬBけれども前のよりはつまらない生涯になった。マーどうかなるだけ罪を犯さないように、なるだけ神に逆らって汚《けが》らわしいことをしないように、ただただ立派にこの生涯を終ってキリストによって天国に救われて、未来永遠の喜びを得んと欲する考えが起ってきました。
そこでそのときの心持ちはなるほどそのなかに一種の喜びがなかったではございませ
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