を形に顕《あら》わして "Human Understanding" という本を書いて死んでしまった。しかし彼の思想は今日われわれのなかに働いている。ジョン・ロックは身体も弱いし、社会の位地もごく低くあったけれども、彼は実に今日のヨーロッパを支配する人となったと思います。
それゆえに思想を遺すということは大事業であります。もしわれわれが事業を遺すことができぬならば、思想を遺してそうして将来にいたってわれわれの事業をなすことができると思う。そこで私はここでご注意を申しておかねばならぬことがある。われわれのなかに文学者という奴がある。誰でも筆を把《と》ってそうして雑誌か何かに批評でも載《の》すれば、それが文学者だと思う人がある。それで文学というものは惰《なま》け書生の一つの玩具《おもちゃ》になっている。誰でも文学はできる。それで日本人の考えに文学というものはまことに気楽なもののように思われている。山に引っ込んで文筆に従事するなどは実に羨《うらやま》しいことのように考えられている。福地源一郎君が不忍《しのばず》の池のほとりに別荘を建てて日蓮上人の脚本を書いている。それを他から見るとたいそう風流
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