します。それで事業をなすということは、美しいことであるはもちろんです。ドウいう事業が一番誰にもわかるかというと土木的の事業[#「土木的の事業」に傍点]です。私は土木学者ではありませぬけれども、土木事業を見ることが非常に好きでございます。一つの土木事業を遺すことは、実にわれわれにとっても快楽であるし、また永遠の喜びと富とを後世に遺すことではないかと思います。今日も船に乗って、湖水の向こうまで往きました。その南の方に当って水門がある。その水門というはA山の裾をくぐっている一つの隧道《ずいどう》であります。その隧道を通って、この湖水の水が沼津の方に落ちまして、二千石|乃至《ないし》三千石の田地を灌漑しているということを聞きました。昨日ある友人に会うて、あの穴を掘った話を聞きました。その話を聞いたときに私は実に嬉しかった。あの穴を掘った人は今からちょうど六百年も前の人であったろうということでございますが、誰が掘ったかわからない。ただこれだけの伝説が遺っているのでございます。すなわち箱根のある近所に百姓の兄弟があって、まことに沈着であって、その兄弟が互いに相語っていうに、「われわれはこの有難き国
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