ンドの荒地はこの種の荒地であったのであります。今より八百年前の昔にはそこに繁茂せる良き林がありました。しかして降《くだ》って今より二百年前まではところどころに樫の林を見ることができました。しかるに文明の進むと同時に人の欲心はますます増進し、彼らは土地より取るに急《きゅう》にしてこれに酬《むく》ゆるに緩《かん》でありましたゆえに、地は時を追うてますます瘠せ衰え、ついに四十年前の憐むべき状態《ありさま》に立ちいたったのであります。しかし人間の強欲をもってするも地は永久に殺すことのできるものではありません。神と天然とが示すある適当の方法をもってしますれば、この最悪の状態においてある土地をも元始《はじめ》の沃饒に返すことができます。まことに詩人シラーのいいしがごとく、天然には永久の希望あり、壊敗はこれをただ人のあいだにおいてのみ見るのであります。
まず溝を穿《うが》ちて水を注ぎ、ヒースと称する荒野の植物を駆逐し、これに代うるに馬鈴薯《じゃがたらいも》ならびに牧草《ぼくそう》をもってするのであります。このことはさほどの困難ではありませんでした。しかし難中の難事は荒地に樹を植ゆることでありました、このことについてダルガスは非常の苦心をもって研究しました。植物界広しといえどもユトランドの荒地に適しそこに成育してレバノンの栄えを呈《あら》わす樹はあるやなしやと彼は研究に研究を重ねました。しかして彼の心に思い当りましたのはノルウェー産の樅《もみ》でありました、これはユトランドの荒地に成育すべき樹であることはわかりました。しかしながら実際これを試験《ため》してみますると、思うとおりには行きません。樅は生《は》えは生《は》えまするが数年ならずして枯れてしまいます。ユトランドの荒地は今やこの強梗《きょうこう》なる樹木をさえ養うに足るの養分を存《のこ》しませんでした。
しかしダルガスの熱心はこれがために挫《くじ》けませんでした。彼は天然はまた彼にこの難問題をも解決してくれることと確信しました。ゆえに彼はさらに研究を続けました。しかして彼の頭脳《あたま》にフト浮び出ましたことはアルプス産の小樅《こもみ》でありました。もしこれを移植したらばいかんと彼は思いました。しかしてこれを取り来《きた》りてノルウェー産の樅のあいだに植えましたときに、奇なるかな、両種の樅は相いならんで生長し、年を経るも枯
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