したが、やがて聖餐祭は始まりました。実にしずかな聖餐祭で、人びとのくちびるの動きは見えても、その声はきこえないのです。鐘の音もきこえません。
 カトリーヌは自分のまわりにいる不思議な人びとの注目を受けていることを感じながら、わずかに顔を振り向けようとする時、そっと隣りを偸《ぬす》み見ると、その人は婆さんがかつて愛していて、四十五年前にもう死んでいるはずの騎士ドーモン・クレーリーであったのです。カトリーヌはその人であることを、左の耳の上にある小さい痣《あざ》と、長い睫毛《まつげ》が両方の頬《ほほ》にまで長い影をうつしているのとでたしかめたのです。彼は黄金《きん》色のレースのついている緋色《ひいろ》の猟衣《かりぎぬ》を着ていましたが、その服装こそは聖レオナルドの森で、初めて彼がカトリーヌに逢って、彼女に飲み水をもらって、そっと接吻《キッス》をした時の姿であったのです。彼はいまだに若わかしく、立派な風貌をそなえていて、彼が微笑を浮かべると、今も美しい歯並があらわれるのでした。カトリーヌは低い声で彼に話しかけました。
「過ぎし日の私のお友達……そうして、私が女としてのすべての愛を捧げたあなたに
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