ら、女王は一行の前に立つた。宝石をちりばめた長い袍を着てゐる。
バルタザアルは女王を見ると何うしたらいいかわからなくなつた。女王が「夢」よりも愛らしく、「望」よりもうつくしく見えたのである。
『陛下、女王と都合のよい商業上の条約を結ぶのを御忘れなさいますな』とセムボビチスが小声で云ふ。
『陛下、御気をつけなさいませ。女王は魔法を使うて男の愛を得るのぢやと云ふ事でございます』とメンケラがつけ加へた。
それから魔法師と宦官とは伏拝をして退出した。
バルタザアルはバルキスと差向ひになつたので何か云はうと思つた。そこで口を開いて見たが一言も出ない。王は『黙つてゐたら女王は怒るだらう』と思つた。
けれども女王は未だほほゑんでゐる。怒つて居る気色は少しもない。先へ口をきつたのは女王である。声は最も微妙な音楽よりも更に微妙であつた。
『よくいらつしやいました。わたくしの側へお坐り遊ばせ』女王は白い光の様な、しなやかな指で、地に鋪いてある紫の褥《しとね》を指ざすのである。バルタザアルは坐つて、長いため息をついて、それから両手で褥をつかみながら、慌ててかう云つた。
『陛下、寡人はこの二の褥が、あ
前へ
次へ
全24ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
フランス アナトール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング