の白つぽく砂に塗れた大きなからだを支える爲に、痩せた後肢を後へと突つ張つて喘いだ。
 さうしてやつと、坂の途中まで上りかけた彼等は、そこでちよつとでも氣を緩めやうものなら、忽ちドオーツと、はづみを啖つて、その過重な荷と共に無慘な轉落をするだろう。
 牛も臀部の筋肉を痛々しく露出させて、極度の努力を示してゐれば、牛方の男も何とも意味の解らない怒號を發しつゞけてゐる。
 今、今、牛も人も氣が狂つて、何ものにか突進してくるのではないか!
 私は思はず何處かに遁げ場を求めやうとして周圍を見廻した。
 巡査も群衆も皆ひとりでに逃げ道を用意しながら、凝とその光景を見つめてゐた。
 よいつしよ、ほらつしよ、よいつしよお……牛方はやつぱり、唯是れ鬪爭――といふ氣勢で、愛情も生命も投げ出してしまつたものゝやうに、死力を盡して叫ぶ。
 それでも牛は、つぶらな可愛い、體の割に小さい瞳を、無邪氣に柔順に※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]り、咽喉のたるみ[#「たるみ」に傍点]をいよいよ急しくひこひこ[#「ひこひこ」に傍点]と波打たせ涎の絲を地にひきながら、疾う疾う坂を上り切つた。
 それを見送つてゐると
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