だ! 彼女は感動に堪えられなくなって、荒れた骨ぶとな手で顔を掩うた。
それから間もなく彼女は家をたたんだ。そして娘の友達のまさ子と一緒に事務所の傍の長屋に移った。知らない人はまさ子の本当の母かと思う位、まさ子について何処へでも出かけた。まさ子の代わりに警察へも行った。
「てめえ、救援会だろう――」
「いえ、私は××の母です。」
「一緒にブチ込んで[#底本では「プチ込んで」と誤記]やるぞォ」
何と脅かされても、根気よく彼女は差入れに行った。毎日出かけた。そしていつでも、目的を達して来た。
「まあ、おばさんには奴らだってとても敵《かな》わないわ。」
まさ子は感服すると、彼女は経験を誇るように、
「やっぱり、倒れるまでやらにゃあ――」
反身になって、晴れ晴れという。
そして各地区に洗濯デーがあると、誰よりも先に出掛けて行くのは彼女だった。
底本:「渡良瀬の風」武蔵野書房
1998(平成10)年11月9日初版発行
底本の親本:「月刊批判11月号」我等社
1931(昭和6)年11月1日発行
「年刊日本プロレタリア創作集1932年版(改定版)」日本プロレタリア作
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